谷口タカオ
自己と他者ののっぴきならない関係を突きつける存在
谷口はそもそも競争の中に身を置くタイプではありませんでした。
しかし前キャプテンによる主将抜擢や丸井の一方的な思いこみといった他者の勝手な期待、
欲望を自分の責任に置き換え、主体的に取り組んでいきます。
絶えず期待に応え続けることは野球の才能を伸ばすという自己実現を可能にする一方で、
自分の思いを脇に追いやり、自信を抑圧していくことにもなります。
そんな彼を最終的に待ち構えていたのは、二度と野球ができないという絶望でした。
人間は他者の期待に応えることで完全な自己像を手に入れることができますが、
その一方で自分自身は破滅してしまうかもしれない。
谷口とは、そんな究極の問いを突きつける存在なのではないでしょうか。
ボス欲求が強いが本当の意味では鬼になりきれない
典型的な対人間関係積極タイプでリーダーシップをとりたがります。
近藤を目の敵にするのは自分の命令を聞かない、つまり自分のボス欲求を傷つけられるからでしょう。
このタイプは感情的で近視眼になりやすく大局を見ることができません。
丸井の場合は谷口を師とすることで、そうした自分の未熟さや権力欲求を何とか制御していますよね。
また自分がキャプテンであるという権力関係には敏感な反面、対人関係を重んじるため、非常にはなりきれない。
厳しくし過ぎて自分からみんなが離れていくことを恐れているんです。
孤独に弱いんですね。
だから高圧的にものを言ったりする一方で練習のスケジュールを徹底できないほど、本当の意味では鬼になりきれないんです。
能力を徹底的に重視する一方で未熟な者を愛する
彼はワークタスクを非常に重視するタイプです。
自分がいかに有能で優秀であるか証明することを人生のひとつの目標とするような部分があります。
その分、対人関係には疎いですよね。
だからみんながついてこれなくても「僕ひとりでやるからいいよ」と言ったり、相手の一番痛いところをズバッと突いて、
人間関係をズタズタにしてしまうといったことも平気でやってしまう。他人がどう思うかなど、ほとんど気にしないんですね。
能力重視の孤独な世界でたったひとりで平然と生きていけるタイプですよ。
そのうえ集中力が高く、絶対に妥協しない鉄の意志をもっている。
だからこそ特訓の立案者たりうるんです。
実際、弟も「兄は勝つためならどんな犠牲でも払う」と言ってますよね。
しかし徹底した能力主義である一方で、このタイプはどういうわけか、未熟な者を愛する傾向があるんです。
そうすることで自分の中でバランスをとっているのでしょう。
イガラシが近藤を可愛がるのは同情ではないんですね。
優秀さのみにこだわる徹底して愚かな未熟者
自分の優秀さを絶えず証明したいのが近藤です。
彼が目立ちたがるのは人気者になりたいというよりも、自分の実力を周囲に認めさせたいため。
ところが彼の場合、自分の天賦の能力だけに頼って、努力はいっさいしたがらない。
優秀であることにこだわる一方で、非常に消極タイプなんですね。
できたら一生寝て暮らしたいという。
そんな近藤の描き方に、作者の確信が見える気がします。
彼は非常に未熟で愚かですよね。
こうした愚かさを無垢なものとする見方がありますが、この作品を見る限り、愚かさとは無垢でも純粋でもなく利己主義にすぎないのだと、
徹底的に描きつくしているように思うんです。
愚かさとはすなわち欲望を抑制できない弱さにすぎないのだと。
近藤の描き方の中には、人間の愚かさというものを大目に見てはいけないという、作者のものすごく厳しい視線が含まれていますよね。
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